・小指・

千切れた糸は、二度と解(ほど)けて

千切れた小指は、深い眠りの中へ

落ちて

落ちて

 

 

 

 

 

 

 

 

二人で会う場所は、いつも決まっていた。

そこは、5番街の廃れた教会。床は軋み、かつては美しかった
ステンドガラスには皹(ヒビ)が入り、酷い状態である。これでは、
舞い降りるはずの神も、ここを見放すはず。
しかし、神はその地にきたようだ。
壊れた天井から差す僅かな日の光と僅かな床の隙間から
咲かす生命に溢れた花々。これは、偶然なのだろうか?
それとも、気まぐれな神からの贈り物?
どちらにせよ、たった一つ言える事は星に流れる生命の波がここ
にはあった。



ザックスは、この場所を「懐かしい」と言った。エアリスが「どうして?」
と尋ねると、彼は陽だまりのような笑顔で「どうしてだろうな」と笑った。
そして、彼は天井から覗く高い大空を見上げる。青の空を白い雲が
優雅に流れていく。
エアリスは思った。きっと、星にいた記憶が残ってるのかもね、と。



「エアリスは、俺のこと好き?」
花の手入れの最中だった。ザックスからの突拍子もない質問。
彼女は答えを出すのを戸惑った。
真剣に自分を見据える彼が、いつもの彼に見えないからだ。
いつもの彼は、エアリスの目の前であっても女性に声をかけたりする、
浮気者である。そんなザックスが、いつにもなく真面目で、怖かった。
黙りこくったまま、時間が過ぎる。
そんなエアリスを見兼ねて、ザックスは彼女の頭をくしゃくしゃと掻き荒
らした。彼女は慌てて彼を制した。
ザックスは少し苦笑いをし、言った。
「あーあ、両思いだったら、淋しくねぇのになぁ」
「え・・・?」
首を傾げるエアリスに彼は少年のような瞳でに話す。
「今度、俺、任務にいくんだ。
ついに、英雄セフィロスと一緒の任務なんだ。
あの、セフィロスと一緒になるなんて、最高だよなっ!!」
その表情は喜びに満ちていた。彼女は、
「・・・そうだね・・・」
と、無理に微笑んで見せた。彼の夢が叶うのだから、喜ばなければ
ならない。けれど、エアリスは不安だった。
今までのザックスが行った任務は、ミッドガル周辺であったからエアリスは、
安心だった。しかし、今回は「ニブルヘイム」。海の向こうの大陸にある町。
「気を・・・つけてね」
それがエアリスの精一杯の言葉だった。
『行かないで』とザックスに言えたらどんなに楽だろう。しかし、彼を引き止め
ても、意思の固い彼が簡単に折れる訳がない。
再び俯いてしまったエアリスを、ザックスは優しく抱擁する。
「ちゃんと帰ってくるから、浮気すんなよ」
「・・・それは、あなたの方」
二人で一緒に声を上げて笑った。


そして、彼はミッドガルを離れた。
エアリスがそれに気づいたのは、次の日、教会に彼が来なかったから。
その代わりに、タークスのツォンが報告しに来た。彼は無愛想に、
「・・・ソルジャー1st、ザックスは任務へ行った」
と言い、去ってしまった。
彼女は、喉の奥でつっかえた言葉を飲み込み、再び手入れの作業を始める。
ツォンはあの日以来、教会に訪れなかった。
また、ザックスが帰ってくることもなかった。






ザックスが帰らないまま、5年が過ぎた。彼女は22歳になった。
ザックスは未だに行方不明になっている。手紙や電話の一本さえない。
友人達は皆、口を揃えて「死んだ」と言った。が、それでもエアリスは
「生きている」可能性を信じたかった。
あの日言えなかった言葉をどれだけ後悔しただろう。


ザックスの質問の答え。きっと今なら言えるだろう。
『好きだよ』、と。






























千切れた糸は、二度と紡げずに

千切れた小指は、深い水底へ

落ちる

落ちる




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ザクエア・・・、一度やってみたかった。ついでにツォンも出したかった。
エアリスは、最後までザックスの生死を知らないままなんですよね。
それって、結構残酷だな、と思います。

 

07・03・03