待っていた
この朝を。
・・・朝食・・・
心地のよい朝日で、エアリスの気分は良かった。
天気が良いと、彼女の心は弾む。
今日は、何をしようか。考えるだけで楽しくて仕方がない。
まずは自宅の前の落ち葉を片付けてから、彼とともに町に行こう。
彼の服を買おう。彼はモデルみたいに格好良いから、何でも似合いそうだ。
午後は、お菓子を作ろう。ユフィ達と彼と一緒に久しぶりのおやつを食べよう。
ああ、今日はとても良い日。
彼女が本日の予定を立てている最中に、二階からドタドタと激しい音が響いた。
彼女はハッと我に返る。
・・・その前に家族の朝食を作ってから。
彼女はエプロンを着け、鏡の前に立った。ニッコリと笑顔を作り、
キッチンへと向かった。
鼻歌を歌いながら、卵をフライパンの上に落とす。
卵はジュゥと、音をたてる。
その後も、慣れた手つきで卵を4つ割る。
・・・ふと、彼女は気づいた。
今日から、卵が一つ、増えるのだ。
今まで使われていなかった五つ目の皿に、料理がのる日がくるなんて!
彼女は微笑むと、冷蔵庫から一つ、卵を取り出した。
「おはよう、エアリス!!」
元気の良いソプラノの声が部屋に広がる。
リビングに初めにやってくるのはユフィ。
「おはよう、ユフィ」
彼女は二ッコリと答える。
「ねぇねぇ、朝食はいつ頃?」
「皆揃ったら、ね」
朝刊を片手に、リビングへとやってくるのは、シド。
「おはようさーん」
「おはよう、シド」
「おはよーん」
彼は彼専用のソファに座り、朝刊をみる。これは、彼の日課である。
「シドは、いつものコーヒーでいいんだよね?」
彼のお気に入りのコーヒーを用意しながら、彼女は尋ねた。
「おう。ありがとよ〜。」
最後にやってくるのは、レオンだ。
朝の町の見回りから帰って来る彼。
「おはよう」
「レオン、おはよう」
「おはよー」
「おはよーさん」
口元に微笑を浮かべたレオン。気になり、エアリスは問い掛けた。
「ねぇ、レオン、いいことあった?」
レオンは振り向き、すこし、笑った。
「町に、人が増えていたんだ」
その言葉に、彼らは驚く。そして、喜んだ。
この町が再建される日は近い。
彼らに希望の光が輝いていた。
そろそろ料理が出来上がる頃。
テーブルに置かれた料理はキチンと五つあり、準備万端。
買ったばかりのテーブルクロスは、皺一つない。
後は、彼を待つだけ・・・と思いきや。
「ねぇねぇ、エアリス。椅子、足りないんじゃない?」
「あっ・・・」
ついつい、彼と朝食が食べられるのが嬉しくて、料理に気合が入り過ぎた。
椅子が足りない。
「い、今すぐ探してくるから、待っててっ!」
あわてて廊下へ飛び出す彼女。
新聞で顔が隠れているシドは、こみ上げる笑いを抑えた。
物置は、階段の空洞の中である。スペースはそこそこある。おかげで
シドの秘蔵グミシップの部品や、ユフィの手裏剣、レオンが読破した本などが多く入っている。
「ふぅ・・・」
物置を探り、なんとか椅子が見つかり、安堵するエアリス。
椅子は、かなり埃を被っていて、人が座りにくいと思われる。
そう思って、持ってきた雑巾で椅子を丁寧に拭いていく。
トンットンッと聞きなれない足音が階段から響く。でも彼女は知っている。いや、
覚えている。
少しずつ近づく足音。彼女の表情が強張る。
ああ、どうしよう。何を話せばいいのだろう。なんて顔をすればいいのだろう。今朝、練習した笑顔を
思い出そうとしても、中々出てこない。彼女の頭は完全に混乱状態に陥った。
彼女が一人、パニックを起こしていた時、彼は既に階段を下り切っていた。
「ク・・クラウド・・・」
やっと喉から出た言葉だった。動悸が激しくなるのを彼女は感じた、が。
彼は何も、返事をしなかった。
昨日見た彼ではない。キリッとした瞳は虚ろで、髪の毛は寝癖もついている。そんな彼を見た彼女は、
クスリと笑ってしまった。こんなに無防備な彼を見るのは、初めてだ。
「クラウド、寝癖」
「・・・・」
首を傾げる彼。相当眠いようだ。
「・・・はねてるよ」
「・・・髪の毛・・・か?」
「そう」
「・・・直してくる」
気だるそうに前進する彼。
彼女は立ち上がり、彼を見た。
自分よりも数十センチも身長が高い彼。幼少の頃ははエアリスの方が大きかったのに。
そんな彼を、エアリス達は壊れていく世界に置きざりにしてしまった。
それは、どんなに悔いても許されない。
彼女が平和に暮らしていた間、彼は生きていくためにたくさんの泥水を被った。自分の身を守る為に「闇」と
契約し、人々から批難の声を浴びた。
辛くても、弱音を吐かなかった彼。たった一人で生き抜いて、やっとまた会えた。
その奇跡をエアリスは神に感謝したと同時に、瞳が涙で滲んだ。
「・・・エアリス?」
ふいに声を掛けられ、目を擦る。彼の瞳の深い空色は幼い時と何も変わっていなかった。
「何でも、ないよ」
もう、そんな辛い目に絶対にあわせない。彼女は誓った。
「さ、ご飯、食べよ?」
「お、おいっ」
突然のことに焦るクラウド。しかし、エアリスは無視。
「顔、洗うの後っ!」
クラウドの背中を無理やり押し、リビングへの扉を開く。そんな彼をシドたちの挨拶が彼を迎える。
彼は少し、右往左往しているよう。それがとても微笑ましくて、嬉しく仕方ないエアリス。
そっと彼女は助言する。。
「『おはよう』って言ったら?」
「何で・・・」
「いいから」
少し不服そうに、けれど照れながら、彼は言った。
「おはよう」
07・01・09